松本大さんのリスク論

今日のマネックスメールにリスク管理に関する文章が載っていた。
筆者はマネックス松本大社長。含蓄深い良い文章なので、全文を転載します。

米国のサブプライムの問題が大きく報道されています。今迄に何度も何度も金融市場では問題が起き、その度に最先端の金融工学等を使い、新しいリスク管理の手法や仕組み・制度が作られてきました。しかしそれでも尚、常にまた、リスク管理の想定を越えた問題が起きます。何故でしょう?これは基本的に、金融工学なるものが、過去のデータを元に、確率的に過去の平均値を計算し、それを未来の平均値としているだけだからです。実際には時間の経過と共に、即ち未来に向かっていく中で、事象の中心値は変わっている可能性があります。或いは中心値は変わらなくとも、未来の事象のバラツキ方が変わっている可能性があります。


過去のヒット曲の傾向分析から、必ずしも未来のヒット曲が作れないことは感覚的に分かりますが、こと金融になると、過去の経験分析によって未来をコントロールできると思ってしまうところに問題があります。複雑系物理学の有名な実験で、無振動・無風状態の体育館で、天井の一定の場所から砂粒を落とし続け、床に出来る砂山が、いずれ崩壊というか雪崩を起こす様子を観察したものがあります。全く同じ条件で、何万回この実験をしても、砂山が崩れるタイミング、崩れる形、崩れる規模は、常に違う結果となります。臨界点に達したものが、いずれ崩れることは分かっていても、どのようなタイミング・形・規模かは、決して予測できないのです。マーケット(金融市場)の崩壊のプロセスも、これと同じだと、考えられています。


ですからリスク管理は、過去の延長上には構築不能で、例え過去経験から見て想定外の崩れ方をしても大きな問題とならないように、リスクの先を分散するしかないのです。そして分散は、同質のものにいくら分散をしても全く意味がありません。異質のものに分散しなければいけないのです。この問題は、簡単なようでとても難しい問題です。世界中の多くの金融機関が、何度も同じ間違いをしてきました。今回を契機にも、恐らく治りはしないでしょう。しかし賢明な投資家は、この問題をきちんと理解するべきだと思います。