青木昌彦「私の履歴書 人生越境ゲーム」

夕方から国立へ出て増田書店で青木昌彦氏の「私の履歴書 人生越境ゲーム」を
立ち読みしたら、面白くて結局最後まで読んでしまった。日経新聞連載時に
読めなくて後悔したが、大幅加筆されたこの本で読めたのはよかった。
池田信夫さんのブログでも紹介されていたが、とても経済学者とは思えない
波乱の多い人生である。ブントの活動家として参加した60年安保闘争に挫折、
マルクス経済学界の知的退廃ぶりに嫌気がさして近経に転向という話自体は
ありがちだが、感傷も文学臭もなく淡々としかも割と詳しく語られ、
敗北をきちんと認めている点がいいなと思った。その後のアメリカ留学から
比較制度学派のエースとして世界的に活躍するまでの成功物語の中では、
ケネス・アローをはじめとする内外の経済学者との交流の話が興味深い。
根岸隆岩井克人との交流は、考えてみればさほど意外でもないけれど、
京大経済研究所時代に河合隼人教授との交流から河合氏の中空構造論を
経済学に応用するアイディアを得たという話や、スタンフォード大学
コンドリーザ・ライスと出会った時のエピソードなどは、かなーり面白かった。
一方、経済産業研究所所長時代の話は、正直もっと書いて欲しかったと言うか、
これだけで1冊の本にして欲しいくらいだけど、RIETI所長「解任」の理由に
ついての池田信夫さんの説明が引用され、「政治的すぎて正しくない」と
コメントされているところを見ると、まだ書けないことも多いようだ。
青木昌彦氏と言えば、日本人初のノーベル経済学賞受賞者になる可能性が
高い人物として知られているが、この本を読んで私は、ぜひ青木さんに
ノーベル賞を獲ってもらいたいと思うようになった。日本にもこんな立派な、
そしてこんなにカッコイイ経済学者がいることを、もっと知って欲しいと
思うようになった。我ながらダサい感想だが、あえてそのまま書いておきます。