桑田引退について

桑田真澄選手が現役引退を発表した。メジャーリーグの1軍で
投げられる見込みがなくなったのが引退を決意した理由らしい。
率直に言って、この引退劇は桑田らしくなかったと思う。
そもそも大リーグに挑戦するのが遅過ぎた。桑田自身、若い頃は
20代のうちにアメリカに行きたいと語っていた。「ピークを過ぎてから
行っても意味ないから」と何かのインタビューで言っていたと思う。
しかし実際には、昔の江夏とかと同じで、キャリアの終わりに
なってようやくメジャーに挑戦した。それもどこか真剣味に欠けた。
江夏同様、「ええ夢見せてもらった」だけで充分と内心では思っている
ような、桑田らしくない不真面目さが感じられた。私はそれがイヤだった。
若い頃、私は桑田が好きだった。投球フォームがきれいだったからだ。
もともと私は、堀内、定岡、槙原といった、ダイナミックなフォームの
力投型投手が好きだったのだが、桑田のフォームは、力みのない、
流れるようにスムースなフォームだった。ちょっと東尾のフォームに
似ていたが、東尾よりずっと軽やかだった。それは見ていて気持ちいい、
ほとんど美しいとも言えるフォームだった。また彼の人柄も好きだった。
アイドル/芸能人には興味なし、多摩川ギャルは大嫌い、結婚する前も
してからも家族をとても大切にする。マウンドでは冷静。闘志を内に
秘め、受け狙いのコメントやビッグマウスとはまったく無縁だった。
そんな桑田は、私の中で「プロ」の象徴ですらあった。
それだけに、ここ数年の彼のプロらしからぬ振舞は残念だった。
引退が決まり、野球の神様がどうのこうのという妙に悟ったような
コメントや腑抜けたような薄笑いを見なくて済むなら、私には有り難い。
プロになることは難しく、プロが最後までプロであることはとても難しい。
そのことを桑田は身をもって教えてくれた。もし巨人の選手でなければ、
桑田はもっと早くアメリカに渡り、最後までプロでいられたかも知れない。
そう考えることは、しかし、桑田にとって失礼であろう。
「過程は大事だ。だが、結果が全てだ。」
桑田自身が、誰よりもよくそれを分かっていると思う。