アイドルブームはたぶんアイドルのブームではない
BiSの新曲「DiE」のミュージックビデオが公開された。見てみると、
例によっていかにもBiSらしい問題作。「よくやるなぁ」と感心しつつ、
「これをアイドルと言われても困るよなぁ」と改めて思った。
BiSやlyrical schoolの活動を見ていてよく思い出すのは、1980年代初期、
MANZAIブーム真っ盛りの頃にビートたけしが語った次のような発言。
いま漫才ブームなんて言われてるけど、あれはウソ。漫才ブームなら、
なんでてんやわんやさんや、いとしこいしさんが売れてないんだよ。
本当は、MANZAIという名前で台頭してきた新しいお笑いのブームなんだよ。
うろ覚えだけど、おおむねそんな内容の発言で、当時高校生だった自分は、
なるほどと深く納得したものだった。
今日のアイドルブームにも同じことが言えるのではないだろうか。アイドルのブームなら、
真野恵里菜や吉川友がもっと売れてなきゃおかしいし、松浦亜弥がこんなに長く沈黙を
強いられているのも変である。実際は、アイドルという名前で台頭してきた
新しいスタイルのエンターテインメントのブームと考えた方がしっくりくる。
今のアイドルと一昔前のアイドルの一番の違いは、握手会や物販での対応が重視
されることである。つまり、歌やダンスに加えて、コミュニケーション能力が
要求される。シンガーとソングライターを兼ねてる人をシンガーソングライターと
呼ぶ例に倣えば、今のアイドルは「シンガーダンサーコミュニケーター」と呼びうる
存在である。この定義なら、BiSもリリスクも十分アイドルと言える。
アイドルの原義が偶像であることからも分かるように、古典的アイドルの本質は
イメージである。花の写真を撮るにはカメラが必要なように、生身の人間から
イメージを生成するためにはメディアが必須である。それに対して、
現代のアイドルの本質はパフォーマーである。舞台さえあればメディアは必要ない。
この点が古典的アイドルと現代のアイドルの決定的な違いだと私は思う。
よく「アイドルは夢を売る存在」と言われるが、これはイメージ時代の話。
現代のアイドルは、主に楽しさや気持ちよさ、つまり快楽を売る存在である。
夢は幻想だが、快楽は現実だ。実際、今のアイドルファンは、昔の
アイドルファンに比べて、考え方が良くも悪くもはるかに現実的になっている。
こうした本質的な変化に抗って、夢を売るアイドルを作ろうとするとどうなるか?
大抵は失敗する。または、幻想を共有できる小規模のコミュニティに埋もれる。
ここ数年のアイドルシーンを見る限り、古典的アイドルの未来は暗いと言わざるをえない。
こうした情況への挑戦者として登場してくるのが、たぶん武藤彩未ちゃんだろう。
「本物のアイドルになりたい」という武藤さんの思いに嘘はないはず。
しかし、現代の日本において「本物のアイドル」とは何なのか?
それは1980年のDNAを発現させることで達成できるようなものなのだろうか。
現に能年玲奈は達成してるじゃないかと言っても、それはあくまでもNHKという、
比較的信頼度の高いメディアに守られてのこと。音楽志向のアイドルにとって、
戦友として頼りにできるマスメディアなど、もはやこの国のどこにも存在しない。
もし武藤彩未が成功すれば、平成のアイドルブームも、本質的には昭和のそれと
変わらないアイドルのブームだったということになるだろう。逆に失敗すれば、
このブームの本質は、便宜的にアイドルと総称される新しいエンタメの台頭であることが、
証明されることになると思う。おそらくそれは最終的な証明になるだろう。
「武藤彩未 LIVE DNA1980」
【日時】2013年7月19日(金)
OPEN 18:30 / START 19:30(※内容60分予定)【会場】渋谷O-EAST
【チケット料金】¥4,200(税込/オールスタンディング/入場時1ドリンク別)
【チケット一般発売日】5月25日(土)10:00〜
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