AKB48のグッドデザイン賞受賞に対する疑問

AKB48が今年のグッドデザイン賞に選ばれたようだ。
デザイナーはもちろん秋元康。彼のエントリー時のコメントは、

次世代アイドルのデザイン/大衆の“何となくの認知”ではなく、
スケジュールを調整し、そこへ行き、お金を払ってでも観たいと
思うものこそが、“人気”だ と。カルピスの原液のように、稀釈して、
カルピスウォーターやカルピス味の飴やアイスクリームになるような、
ワンソフト・マルチユースできるのが、 AKB48です。コンテンツも
デザインを変える時代、グッドデザイン賞の専門家の方々の審判を
仰ぎたいと思います。

一方、審査委員からの選定理由は以下のとおり。

AKB48秋元康氏の全面プロデュースにより、2005年に
「会いにいけるアイドル」というその見事に時代をついたコンセプトを
かかげ誕生した。秋葉原に専用劇場であるAKB48劇場を持ち、
チームごとに日替わりでほぼ毎日ライブ活動をおこなうファンとの
コミュニケーションを最大限に活用したアイドルと してのあり方や、
AKB48選抜総選挙」「AKB104選抜メンバー組閣祭り」などファンから
社会までを巻き込むプロジェクトの拡大。また東京秋葉原に加えて、
名古屋・栄を拠点とする姉妹ユニットSKE48大阪府大阪市なんばを
拠点としたユニットNMB48など、日本三大都市すべてに大人数アイドル
ユニットを配し、地域に密着した活動を展開している。近年の
エンターテインメントプロジェクトデザインとしては群を抜いた先見性と
完成度で、社会に非常に大きなインパクトを与えた。今後もさらなる
地方展開、海外展開をふまえ、ジャパニーズポップカルチャー
グローバルなエンターテインメントビジネスとして成立させる可能性を
大きく感じさせるプロジェクトデザインである。

こういう話になると「デザインって何だっけ?」という疑問がどうしても
湧いてくる。私の考えでは、良いデザインとはまず、見た目にカッコ良く
なければならないと思う。それだけでもAKBはグッドデザイン失格である。
また現代では機能性が優れていることも良いデザインの条件だと思うが、
その点でもAKBを高く評価するのは難しい。今のAKBは、車でいえば
リムジンみたいなもので、大き過ぎて使い勝手はむしろ悪いのが現実。
使い勝手の悪さが周知の事実である以上、もしデザインは良いのだと
すれば、AKBはリムジンではなく、フェラーリランボルギーニ
ということになってしまう。どこに誤りがあるかは明白だろう。
より根本的な疑問としては、AKBは当初、各メンバーが歌手や女優など、
それぞれ自分の夢を叶えるための「学校」として設立されたはずなのに、
今やAKBにいること自体が多くのメンバーの目的になってしまっている。
歌は、これだけメジャーになってもまだ口パク。演技指導は、外仕事での
OJTのみ。これではとうてい学校として機能しているとは言えまい。
その結果として、国際的に活躍できる女優を目指して海外へ留学するために
AKBを卒業するという、本来であれば模範的なメンバーと見なされるべき
小野恵令奈さんが、多くのAKBファンから、そして本音レベルではおそらく
多くの現役AKBメンバーからも、「脱落者」と見なされている現状がある。
これは単なる皮肉では済まない、現在のAKBの基本的な問題点を暗示、
というかむしろ明示している。


AKB48の成功そのものは、文句なしに素晴らしい業績である。
しかしその成功の理由は、メディア戦略や顧客コミュニケーションを
含めた広義のマーケティングの巧みさにあると見るべきであって、決して
プロジェクトデザインの卓越性に帰すべきではない。私はそう思う。
今回のAKBへの授賞には審査委員の間でも賛否両論があったと信じたい。
しかし選考課程でいくら否定的意見があったとしても、最終的に授賞に
踏み切ったことで、グッドデザイン賞の権威は少し落ちたと私は思う。
大賞はブラビアCR-Zに与えて、伝統ある権威をしっかり守って欲しい。
http://www.g-mark.org/archive/2010/best15/10e16015.html