今日の名文

池田信夫Blogの今日のエントリーに、レヴィ=ストロースの「神話論理」の
最後の部分が引用されていた。池田さんも「パスカルを思わせる美しい文章」
とおっしゃってるが、本当に美しい文章だ。記念に引用しておきます。

神話の根底にある基本的な二項対立は、ハムレットによって正確に述べられた
ものだが、彼はそれを楽観的すぎる形で表現した。人は存在するか否かを
選ぶことはできないのだ。歴史の本質である精神的な努力によって、
人は自明の矛盾した真理を認識し、その根源的な矛盾を解決しようとして
限りなく二項対立を作り出してきたが、その矛盾は決して解決できない。


矛盾の一方には、存在という事実がある。日常生活や精神的・感情的な生活、
政治的な選択や社会的・自然的な世界、実用的な努力や科学的探究に理由や
意味を与えられるのが人だけであることを、彼は深いレベルで知っている。
他方には無という事実があり、それは存在の認識と不可分である。人は未来も
ずっとここにいることはできず、この惑星の表面から消えることは避けられないが、
その惑星も死ぬ運命にある。人の労働や悲しみや喜びや希望など、はかない現象の
記憶を保持する意識も生き残りえず、やがて人類のわずかな証拠も地球の表面から
消されるだろう――まるでそれは最初から存在しなかったかのように。