今年の一冊

今朝のめざましTVで「今年の一冊」を紹介していた。
年にミステリー小説を200冊も読むという林家正蔵は、
このミス1位にもなった佐々木譲の「警官の血」を挙げていた。
これはかなーり面白そうだけど、上下巻で3360円は高い。
文庫化あるいは映画化待ちが妥当だろう。
一青窈は「谷川俊太郎質問箱」を挙げていた。これは私も
出てすぐ立ち読みしたが、あまり面白くなさそうだった。
谷川俊太郎とか村上春樹とか、いつまでも子供でいようとする
おじさんやおじいさんの書く文章はどうも好きになれない。
蒼井優は渋くジャン・アヌイの「アンチゴーヌ」を挙げていた。
アヌイは劇団四季浅利慶太が若い頃憧れた劇作家として有名だが、
戯曲はあまり面白くなかった記憶がある。しかし蒼井優なら、
女優として読めるから、彼女独自の面白さを発見できるのだろう。
蒼井優に限らず最近の若い俳優には読書好きの人が多いようだ。
というか、日本人全体として見ても、この5年ほどで読書好きの
人がぐっと増えたような気がする。ハリーポッターブームを機に
子供たちがよく本を読むようになったのも大きいだろう。
とりあえず良いことではありますが、これは自分の好きなアイドルが
自分の嫌いな作家を褒めるのを聞いてガックリくる可能性が高まる
ことをも意味する。えり〜なが「最近石田衣良さんの本にハマってます!」
なんて言ってるところは見たくないのが人情である。納得。


私自身の今年の一冊は、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」。
これは英米で絶讃の嵐を呼んだらしく、日本でも昨年出版されて非常に
高い評価を受けたことは知っていた。何度か書店で手に取ったこともあったが、
文章が平易過ぎるような気がして避けてしまっていた。が、実際読んでみると、
かなり本格的に素晴らしい作品だった。これなら絶讃の嵐を呼ぶのも納得、
もっと早く読めばよかったと後悔した。作品の性質上、内容紹介のようなことは
しにくいが、現代文明の抱える大きな困難(危機)を、あくまでも淡々と、
難しい言葉や凝ったレトリック一切なしで、繊細かつリアルに描き出す筆者の
才能は驚くべきものだ。そしてまた、ストーリーテリングの技術も超一流。
何年振りかで、現代文学らしい現代文学の傑作に出会えた気がする。
日の名残り」のように「わたしを離さないで」もいずれ映画化されるだろう。
そしてたぶん映画も感動作になるだろう。P.D.ジェイムズの諸作品でもよく知られる
イギリス南東部ノーフォーク地方の荒涼たる風景が美しく描かれることにもなるだろう。
もしそうなら、この映画だけは劇場で見たいと思う。